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イラストレーターの仕事とひとことで言っても、そのスタイルは幅広い。机の前に座ってひたすら頭の中に浮かんだビジュアルと格闘する人もいれば、積極的に取材をし、その様子をいきいきと表現する人もいる。
イラストレーターの小林泰彦さんは、完全に後者だ。いまはなき「平凡パンチ」で、アメリカの各都市を足を使って丹念に取材し、イラストと文章を組み合わせた”イラスト・ルポ“の連載が大人気に。以後、世界中の街やフィールドを興味の赴くままに歩き、作品を紡ぎ上げてきた。
そんな小林さんが現在手がけている仕事のひとつが、日本の街を散歩するという連載企画。いったい、どのような手法で”歩くことの楽しさ“を読者に伝えているのだろう。
「連載の目的は、読者の方に地図を持って街歩きを楽しんでもらうことなんですね。場所は、日本の中で私が行きたいところを選ばせてもらっています。東京の下町で本所・深川を選んだとしたら、私は永井荷風が好きで、荷風の行動をだいたい知っていますから、例えば荷風がらみの散歩コースを立ててみるんです。女性の読者が多いので、歩く時間は1時間半から3時間ぐらいと考えていますね。それから、実際にそのコースを歩いてみます。でも、そのコースはあくまでも原案であり叩き台ですから、より面白そうなコースへとどんどん変えていきます。インタレストポイントを探して、街中を歩き回って、確かめたり調べたり…。結局、私が面白いと思うところへ読者を連れていくわけですね」
鹿児島、長崎、函館、酒田、鎌倉…。カジュアルな服装に、歩きやすい靴、そして地図。文字通り足を棒にしながら日本中を取材して歩き回るうちに、いままでは見過ごしていた新たな発見に恵まれたという。
「最近まで、取材するならとにかく外国に行こうよっていう感じだったんです。メディアが僕に外国取材ばかり要求していたということもありますが。でも、いまは日本のよさを見直しました。人生観が変わりましたね。仕事で街を歩くときは、遊びのときとは違うものが見えるんです。たとえば、鎌倉は友人もいるので一年に何回も行くんですが、北条政子の墓が、安養院の他にもうひとつあることを発見して驚いたり…。”仕事眼“とでも言うんでしょうか、いろいろな面白いものを見つけられるようになるんです」
子供の頃から家にじっとしていられず、とにかく歩き回ることが好きだったんですよと笑う小林さん。まさに天職といえる自分のスタイルを築き上げ、数えきれないほどの街を歩き回ってきたわけだが、これから行ってみたい場所とはいったいどこなのだろう。
「いま行ってみたいなぁと思うのは、イェルサレムですね。四つの地区の区切りはどうなっているんだろう?なぜあんな場所が出来てしまったんだろうと思うのですね。私は本が好きですから、その土地に関する本は色々と読みます。でも、実際に行かないと結局はなにもわからない。逆に、そこへ行ってしまえば、いきなり"わかる"んです。イェルサレムは仕事ではなく、自分の旅として行ってみたいですね。その時は、単なる"散歩"なんかじゃなくて、きっと本当の意味で "歩く"んでしょうね」


取材で街を歩く時には、地域区分地図のモノクロの面を使用。あらかじめ調べたデータを赤ペンで書き込んでおく。
そして、実際に歩きながら、その時の印象やデータとの食い違いなどをチェックし、青ペンで上書きしてゆく。

戦争で疎開していた時期を除き、高校を卒業するまで日本橋区米沢町(現在の中央区東日本橋)に住んでいた小林さん。マンションの一階が稽古場というつくりの、いまの相撲部屋の佇まいに興味津々。
「川向こうだった両国の街もずいぶん変わりました」

まる一日近く歩いてしまうこともあるため、歩きやすい靴は必須。
鞄には地図、筆記用具、カメラなどが。

ベトナム反戦、ヒッピー、サイケデリック……。
大転換期を迎えた1967年のアメリカの街と人の表情を、イラストとルポで活写。
文藝春秋/2,000円(税込)


この記事はアシックスウォーキング情報誌『万歩百景』掲載用にインタビュー及び編集したものです。
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